(3)少額訴訟における欠席裁判
20050120-15:47 コメントする トラックバックする
前のページで述べた通り、身に覚えのない請求はスルーするのが一番ですし、実際に「変な請求はスルー」という考えが浸透してきています。しかし最近これを逆手に取った架空請求が出現しました。それが簡易裁判所における少額訴訟制度を悪用した手口です。
これは、業者が簡易裁判所において少額訴訟という形式の民事訴訟を起こし、相手の欠席を狙って一方的に勝訴判決を取ろうとするもの。被害者のもとに裁判所からの「口答弁論期日呼出及び答弁書催告状」が届いても「また架空請求か」と捨ててしまいがちな風潮に付け込んでいるのです。
裁判所から特別送達郵便が届いた場合には必ずきちんと対応しなければいけません。その理由を述べるために、民事訴訟の基本概念を簡単に書いてみます。
手続保証と自己責任
刑事訴訟と適正手続内の「当事者主義的訴訟構造」と似た話なので、ソチラも併せて読んでみて下さい。
さて、民事訴訟は私人間の争いについての訴訟です。「貸した金返せ」「俺の土地から出てけ」「お前とは離婚だ」等等。それらの争いについて判決が出てそれが確定すると、争った当事者はもはや裁判の結果に拘束され、それにケチをつけられなくなります。「裁判では負けたけど、俺は金なんか払わねぇ!」ってことを言ったら強制執行されますし。
このように判決によって強力な拘束力が招じるのは何故でしょう。それはまず、拘束しないと争いが解決しないからです。裁判所で貰った判決にいつまでもケチをつけられたんじゃ何の為の裁判だか分かりません。「判決が確定した以上、お互い裁判所の判断に従え」ってことにしないと争いの解決になりませんよね。
しかし負けた方としては面白くないのは当たり前。面白くなくても判決には従わなければいけないのです。とすると、負けたほうも「仕方ない」と納得できる様な制度でなければ誰も民事訴訟を利用しようとは思わなくなるでしょう。
負けた方も納得できるようにし、判決による解決が国民の信頼を得られるようにする為に必要不可欠なのが手続保証です。つまり訴えた方(原告)にも訴えられた方(被告)にも主張したいことはきちんと言わせ、必要な証拠もきちんと出させて、それに基づいて審判することが必要。訴訟手続に参加する機会を保障しなきゃダメだということです。
手続保証をすることによって、負けた方に対しても「君だってちゃんと争う機会は有ったじゃないか。精一杯バトルしてそれで負けたんだから、それはそれで仕方ないんじゃないの?」と言えますし、負けた方だって(しぶしぶですが)納得できるでしょう。また当事者以外の国民も「お互いの言い分をしっかり聞いた上での判決なんだから公正なんだろうな」と信頼するはずです。
なので、民事訴訟においては原告被告双方が出席してバトルするのが原則になります。手続保障をしたからこそ、それに基づく自己責任として判決による強力な拘束力が正当化されるのです。
裁判所からの呼出しを無視すると
前述の原則を貫くと不都合が起こります。
例えば交通事故の被害者が加害者から治療費を取りたいと思ったとしましょう。で、裁判所に訴えを起こします。裁判所は加害者にも争う機会を与えるべく、「あなた訴えられましたよ。出席して言い分をちゃんと出してください」と伝えます。でも加害者は「どーせ負けそうだし裁判なんかチンタラやってられるか」と言って無視しました。
こんな場合にまで「お互いが精一杯バトルできてないので判決は出せません」なんて言われちゃ困りますよね。なのでこの場合には訴えた方の主張通りの判決が出てしまうことになります。なぜこんな事が許されるのでしょうか。
まず訴えた側としては、加害者の不誠実な態度のせいで判決がもらえないんじゃ話になりません。それに加害者に対してはきちんと裁判所から「争う機会がありますよ。争ってください」と連絡が行っていました。それを無視したのであれば「あっちの言い分を認めます。争いません」って事と同じだと判断されるのです。手続保証を図ったのに、争う機会を自ら捨てたのだと判断されてしまうのです。
その結果、原告の主張が本当だろうがウソだろうが、被告が争っていない以上は証拠もヘッタクレも無く原告の主張の通りの判決が出ることになります。そしてその判決には執行力がありますから、たとえ身に覚えの無い請求についてでも強制執行を受けますし、上訴期間が過ぎて判決が確定してしまったらもう動かしようがありません。
この様に、前述の原則を貫くことによって生じる不都合を回避すべく、例外的に欠席裁判(一方当事者が法廷に来ないままで裁判しちゃうこと)が認められているのです。
少額訴訟とは
業者は、この「相手側の欠席」を狙っているのです。そして、通常の訴訟よりも手続が簡単で即日判決が出る少額訴訟制度を悪用してきます。
通常の民事訴訟のイメージとしては、お互いが何回も裁判所に通って主張やら立証やらして、それを裁判官が判断して判決…って感じです。これは請求額が非常に高額な場合などには審理に慎重を期す必要があるからです。ところが請求額が数万円なんかの場合にまで何ヶ月もかけて裁判してたんじゃかったるくてしょうがないですね。
そこで請求額60万円以下の金銭の支払を求める裁判については、簡易裁判所での簡便な手続による即日判決が可能になっています。これが少額訴訟制度です。
この少額訴訟についての裁判所からの呼出しを無視すると、即日業者の言い分通りの判決が出てしまいます。「ちゃんと裁判所として呼出しの声をかけておいたのに欠席だなんて、相手の言い分を認めるってことか」と判断されてしまうのです。これに対する異議申立て期間(2週間)が過ぎると、もはやどうにもできません。争う機会が有ったのにそれを捨てたとされて、自己責任を問われてしまいます。
このページのまとめ
▼裁判所からの郵便物をスルーしてはいけません。
さっき、業者は相手の欠席を狙っていると書きました。これは相手が出席して「そんなの架空請求だ」と争ってくると、業者の側が自分達の請求にちゃんとした理由があることを裁判官に確信させるための立証活動を行う必要が出てくるからです。そして所詮は架空請求ですからロクな証拠はありません。こうなると業者に勝ち目はないのです。実際にまともな裁判になって困るのは業者の方なのです。
尚、裁判所からの郵便物についてはコチラに詳しく載ってました。ちょっと引用すると、まずニセモノの特徴として
・封書で普通郵便で届く(差出人の記載はない)
・書面に裁判所名の記載がある
・取り下げ手続をしなければ強制執行を行うと記されている
・裁判の取り下げをしたい場合は、期日までに連絡するよう記されている
というのがある模様。3つ目と4つ目が特に頭悪いなぁ。訴えの取り下げと言うのは、訴えた方が「やっぱやーめた」と裁判を無かったことにすることです。取り下げるかどうかについてコッチの言い分を聞かれても困ります。勝手にやれとしか…。それに強制執行ってのは判決に基づいて行うもの。コッチに争う機会が与えられないまま判決が出ることなんてありません。訴えを取り下げなかったら普通に裁判が進むだけです。ちゃんと業者が訴状を出してれば、ですが。
これに対して本物はというと
・ハガキや普通郵便で送付されることはない
・郵便物自体が手渡しが原則なので、郵便受けに投げ込むということはない
・封筒には、裁判所名と「特別送達」という記載がある
・事件番号及び事件名が必ず記載されている
って感じ。相手に争う機会を保障するための郵便物なんですから、確実に手渡しするようになってるんですね。国民生活センターのコチラのページによると
(1)裁判所からの通知を装い、書類を偽造して送付してくるケースが見受けられるが、書類の真偽の判断は難しいので、放置せず、裁判所に確認若しくは弁護士や消費生活センターに相談すること。
(2)裁判所からの正式な通知だった場合、これを放置しておくと不利益を被る結果につながりかねないので、必ず裁判所に連絡し、裁判手続きに関する事項などを確認するほか、対処方法については弁護士や消費生活センターに相談すること。
(3)支払督促は債務者の言い分を聞かずに発するため、正式な支払督促の通知が届いた場合には2週間以内に督促異議を申し立てること。
(4)身に覚えがないにもかかわらず送付された請求書に「裁判に訴える」などと記載されているようなケースでは、(1)のアドバイスの通り、無視すること。また、一般的に裁判所からハガキで通知が届くことはないので、同様に放置しておくこと。
だそうです。お、支払督促の話が出てきた。じゃあ次はイシダの携帯に実際にかかってきた電話を元に何か書いてみます。
(1)架空請求のどこが頭悪いか
(2)指名債権譲渡の対抗要件
(3)少額訴訟における欠席裁判
(4)支払督促と証明責任
(5)架空請求の添削1
(6)架空請求の添削2、3
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