(1)危険運転致死傷罪と業務上過失致死傷罪
20050120-13:41 コメントする トラックバックする
危険運転致死傷罪が新設されて、10年を超える実刑判決が出たりしているってのは皆さんニュースで眺めたことがあるかと思います。と同時に交通事故関連のニュースの中で被害者や御遺族の方々が「なぜ容疑者をより法定刑の重い危険運転致死傷罪で起訴しないのか」「検察官は被害者の感情を分かっているのか」というコメントが聞かれたり、又はこれらの事を言われた(一部の心無い)検察官が遺族に「口出しするな」等の罵声を浴びせたりという事件が一緒に報じられたりしています。
刑法208条の2
(危険運転致死傷)1項
「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で四輪以上の自動車を走行させ、よって人を負傷させた者は十年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
その進行を制御することが困難な高速度で、又はその進行を制御する技能を有しないで四輪以上の自動車を走行させ、よって人を死傷させた者も、同様とする。」2項
「人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で四輪以上の自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、前項と同様とする。
赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で四輪以上の自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、同様とする。」同211条
(業務上過失致死傷等)1項
「業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。」
2項
「自動車を運転して前項前段の罪を犯した者は、傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。」
危険運転致傷罪の法定刑は10年以下の懲役、危険運転致死罪の法定刑は1年以上15年以下の懲役。これに比べて業務上過失致死傷罪の法定刑は5年以下の懲役又は50万円以下の罰金。随分差がありますね。この点について、危険運転致死傷罪の新設をもって「交通事犯に対する厳罰化が図られた」なんて言い方をよく耳にするものの、これは単純に「車で人を死傷させたら今までよりも重く罰せられる」という意味ではありません。じゃあどういう意味なのか。なんで検察官は業務上過失致死傷罪で訴えたりするのかということを刑事訴訟システム像を眺めながら書いていこうというのがこのスペースでの目的です。
身近な人を事故で亡くされた御遺族の感情からすれば、加害者をわざわざ業務上過失致死傷罪で起訴するのは許し難いことかもしれません。しかし検察官が危険運転致死傷罪についての立証が難しいと考え事実その証拠が乏しい場合に、遺族の声に配慮して危険運転致死傷罪で起訴するとどうなるか。結論から言えば、検察官が自らの主張を変えない限り、たとえ裁判所が「被告人が起こした事故で被害者が死亡した」との心証を持つに至ったとしても「無罪」の判決が出ることになります。しかもそれは控訴・上告しても引っくり返ることはまず無いだろうと思われます。さらにその判決が確定した場合、もはやその事故について被告人の刑事責任を問うことは許されなくなります。結局、被害者・御遺族の方々にとって最も納得のいかない形で訴訟が終了することになってしまうのです。
このことを説明するために、まずは故意犯と過失犯についての基礎的な知識から眺めていきす。
(1)危険運転致死傷罪と業務上過失致死傷罪
(2)故意犯と過失犯
(3)結果的加重犯
(4)刑事訴訟と適正手続
(5)審判対象=訴因
(6)訴因変更
(7)一審の判決
(8)上訴審の役割
(9)一事不再理
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