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トップページ危険運転致死傷罪と業務上過失致死傷罪 > (5)審判対象=訴因


(5)審判対象=訴因

危険運転致死傷罪と業務上過失致死傷罪

20050120-14:50 コメントする トラックバックする

 前のページで、犯罪事実の主張と証拠の申出という訴訟追行の主導権は両当事者に握られていると書きました。裁判官は両当事者のバトルを中立の立場で眺めながら、補充的に口を挟みつつ判断をしていくことになります。

 この事は、裁判官は当事者が主張してこない事実について判断することは出来ないということを意味します。具体的には以下の様なこと。

 被告人は住居侵入罪で起訴されているとします。そして訴訟追行の主導権は当事者にあるのですから、審判対象の設定もまた一方当事者である検察官が行います(「今からこの事実についてバトルを始めるよー」と宣言するってことです)。たとえ大事件が報道されていたとしても、裁判官が「どれ、じゃあ一丁裁いてやるか」といきなり裁判を始めることはできません。一方当事者たる検察官の起訴が無ければなりません。そして、裁判官が判断するのは検察官が主張する事実の有無についてだけです。検察官が主張していない事実について判断することは許されません。

 例えば、検察官が主張する事実が「被告人は、平成15年10月10日午後10時頃、A県B市C町○丁目△号にある甲の住居に不法に侵入した」というものであったとします。この事実の有無について検察官と被告人がバトルをします。そのバトルの結果、裁判官は「被告人は確実に甲の住居に不法に侵入した。でもそれは平成15年10月11日の夜だ」という心証を抱きました。この場合、裁判官は「無罪」の判断をすることになります。又、「被告人は確実に同年同日同時刻に不法に侵入した。でもそれは甲の隣の乙の住居だ」という心証を抱いた場合にも「無罪」です。検察官の主張する通りの事実が無いからです(これは極端な例ですよ、念のため)。

 よろしいでしょうか。当事者主義的訴訟構造とは、検察官のみならず被告人にも思う存分攻撃防御を尽くさせる機会を与えることで刑事訴訟が国家によるリンチになることを防ぎ、両当事者の真剣な訴訟追行を促し、それにより事案の解明と被告人の人権保障がステキに図られるというものでしたよね。つまり検察官が主張する事実を被告人が見据えて、その事実に対して攻撃防御が集中することが大事なのです。それなのに検察官が主張していない事実についてまで「生の事件は実はこうだったのだ」と裁判官が認定してしまうと、被告人からしてみればなんら攻撃防御を尽くしていない事実に基づいて有罪とされてしまうことになります。

 こんな判決が許されたんじゃ、何の為の当事者主義なんだか分かりません。被告人にとっての不意打ちを避けて充分な攻撃防御を尽くさせるため、審判対象は検察官が主張する事実に限られなければならないのです。この検察官主張の事実のことを訴因と呼びます。

 先の例で言えば、「被告人は、平成15年10月10日午後10時頃、A県B市C町○丁目△号にある甲の住居に不法に侵入した」というのが訴因。これと異なる「11日夜の侵入」「乙の住居への侵入」という事実に基づいて有罪判決をすることは被告人にとっての不意打ちとなり、許されないのです。被告人は10日夜のアリバイや甲宅への侵入経路等について攻撃防御を集中させていたはずですからね。

 この様に、当事者主義的訴訟構造を採るが故に裁判官は生の事実から壁で遮断され、訴因の有無についてだけ判断すべきことになります。生の事実については触れることが許されず、事件について白紙の状態で裁判に臨むことになり、予断が排除されることになっていくのです。たとえ大々的に報道されている事件であっても、裁判官は白紙の状態で審理に臨み、訴因についてのみ判断していかなければなりません。

 この訴因制度の趣旨から、訴因は刑事訴訟の一番初めに明らかにされる必要があります。裁判所に審判対象を設定すると共に、被告人にもこれからバトルをしていく対象を明らかにし、不意打ちを避けるためです。法廷もののドラマなんかで、検察官が第1回公判で起訴状を朗読するシーンがありますよね。覚せい剤事件だと

公訴事実
『被告人は、法定の除外事由がないのに、平成○年○月○日、○市○番地被告人方において、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩類を含有する結晶約0.4グラムを約6立方センチメートルの水に溶解した水溶液を自己の両腕に注射し、覚せい剤を使用したものである。』

罪名及び罰条
覚せい剤取締法違反。同法第41条の3第1項第1号、第19条。

 って感じになります。『』で囲んだ部分が訴因です(実際の起訴状には『』はありませんが)。これが明らかにされることにより、裁判官は「ああ、この事実の有無について判断すればいいんだな」と初めて分かりますし、被告人も「ああ、その日時、その場所における事実の有無だけに集中してればいいんだな」と分かることになるのです。

ズレがある場合

 当事者主義→訴因制度というハナシを書きました。でも訴因(検察官が主張する事実)と裁判官の心証が完全に一致しない限り有罪とは言えない、なんてことにすると無罪判決のオンパレードになっちゃいそうです。これは被告人の人権という面からは微笑ましいことかもしれません。けれども刑事訴訟の目的には真相究明・真実発見というものが有ったはず。これを疎かにしては刑事訴訟が国民の信頼を失うでしょうし、何より被害者が納得しません。そこで被告人の人権に配慮をしつつも無罪判決のオンパレード状態になることを避けるべく、訴因と裁判官の心証とにズレが有る場合の処理が問題となってきます。

 これについては、当事者主義的訴訟構造の本質から①検察官の意思に反しないこと②被告人にとっての不意打ちとならないこと、を念頭にに考えていくことになります。

 まず、あまりに些細な事実の食い違いについてはズレを重要視せずに有罪判決可能です。例えば訴因の例で挙げた先の覚せい剤事件について、証拠調べの結果「実は水溶液の体積は7立方センチメートルだったんだ!」ってことが判明した場合です。①検察官の意思としては、そんな些細なことはともかく同年同日同場所での覚せい剤の使用に付いて審判を求めていたんでしょうし、②被告人としてもそんなズレが生じたところで不意打ちになる訳じゃないからです。

 次に、縮小認定という方法です。例えば、検察官が「被告人は殺意を持って被害者を殴りつけ、死に至らしめた」という訴因で起訴してきたとします。審理の結果、裁判官は「傷害の故意は認められるが殺人の故意は認められず、傷害致死だな」との心証を抱いたとします。この場合に、検察官主張の通りの事実が無いとして無罪…なんてことを常にやってたんじゃ困るのです。

 そこで、「大は小を兼ねる」という関係にある事実の認定が可能であると考えていくのです。この場合の「大」は殺人罪、「小」は傷害致死罪です。

 両者の違いは殺意の有無であり、少なくとも傷害の故意を持って殴りつけているという部分、及びその傷害により被害者が死亡しているという部分では共通です。①このような場合の検察官としては、殺人罪が不成立ならばせめて傷害致死罪を認定して欲しいと思うだろうし、②殺意以外の部分について被告人も充分に攻撃防御を尽くす機会が有ったんだから不意打ちにもならない、と言えます。

 なので、たとえズレがあったとしても大小関係+①②の要件を満たせば縮小認定により有罪とできることになります。

 さて、ではこのページの最初の方で例に出した住居侵入罪についての日時のズレや侵入対象のズレはどうでしょうか。このズレがあるまま有罪判決をしようとすると、①検察官の意思としては問題ないでしょうが、②被告人からしてみれば今まで行ってきた活動(10日夜のアリバイ主張・証拠提出、甲宅への侵入は不自然であるという主張・証拠提出等)が全部無駄だったことになり、しかもなんら防御できなかった事実に基づいて有罪判決を喰らうことになります。これは不意打ちで許されません。

 だからと言って、社会的には同一である事件について、そんなズレがあるからといって常に無罪判決が出たんじゃ真相究明や事件の解決がサッパリ図られないことになります。そこで、訴因がズレてるんだったら訴因を変更してズレを治せばイイじゃないか、と考えます。これが訴因変更という制度。これについて、もう少し説明していきます。

このページのまとめ

 このページで言いたかったことは、「訴因とは、検察官が主張する犯罪事実のことである」「裁判官は訴因についてしか判断できない」「訴因と裁判官の心証とにズレがある場合、そのままでは無罪になるのが原則だが、真実発見の見地から修正がある」ということです。それを頭の隅において次のページへ。

(1)危険運転致死傷罪と業務上過失致死傷罪
(2)故意犯と過失犯
(3)結果的加重犯
(4)刑事訴訟と適正手続
(5)審判対象=訴因
(6)訴因変更
(7)一審の判決
(8)上訴審の役割
(9)一事不再理

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