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トップページ危険運転致死傷罪と業務上過失致死傷罪 > (6)訴因変更


(6)訴因変更

危険運転致死傷罪と業務上過失致死傷罪

20050120-14:53 コメントする トラックバック (1)

 前のページで、「訴因と裁判官の心証との間に被告人にとって不意打ちになるようなズレが生じている場合には、そのままでは有罪判決をすることは出来ない」と書きました。それは裁判官が訴因以外の事実を認定することが許されないから、もっと言えば被告人に攻撃防御を尽くさせる機会を与えないでする有罪判決は公正さを持たないからでしたね。

 でも訴訟の中で明らかになってきた事実に適合する様に訴因を変えることができれば、この問題を解決できそうです。前のページの住居侵入罪の日付けのズレを例にして図にすると以下の様な感じ↓

 日付けが1日違うからといって、日付けを修正した訴因を作って最初から訴訟をやり直し…なんてことをやってちゃ時間がかかってタマリマセン。侵入の事実についての攻撃防御は新旧両訴因で共通なんですから、今までの手続を利用しつつ1回の手続で判決に持っていった方が楽に決まっています。①検察官の意思としても社会的に同一の事件についてはサクサクと解決を求めたいでしょうし、②変更後の訴因についてしっかり争う機会が与えられるならば被告人にとっての不意打ちにもなりません。それに一発で刑事訴訟を終わらせてもらうことは被告人にとっても利益です。

 そこで、訴因変更について刑事訴訟法にしっかりと規定がなされています。

刑事訴訟法312条

(起訴状の変更)

1項

 「裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、起訴状に記載された訴因又は罰条追加、撤回又は変更を許さなければならない。」

3項

 「裁判所は、訴因又は罰条追加、撤回又は変更があつたときは、速やかに追加、撤回又は変更された部分を被告人に通知しなければならない。」

4項

 「裁判所は、訴因又は罰条追加又は変更により被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞があると認めるときは、被告人又は弁護人の請求により、決定で、被告人に充分な防禦の準備をさせるため必要な期間公判手続を停止しなければならない。」

 1項では「社会的に同一である事実については、検察官による訴因変更が許される」、3項では「訴因変更があった場合には、すみやかに被告人に通知しなければならない」、4項では「変更後には、新しい事実について被告人に充分に争わせるための機会を提供しなければならない」と書いてあります。検察官と被告人が刑事訴訟の主役であるということが非常に良く分かる条文です。裁判官は観客みたいなもんですね。

 訴因変更制度とは、社会的に同一と言える事件について、被告人の手続保証を図りつつズレを修正することで無罪判決のオンパレード状態を避けると共に、従前の手続経過を利用して刑事事件の1回的解決を図るための制度なのです。刑事事件で訴えられている状態(=被告人という地位)は、それだけで社会から後ろ指を指されたり勾留されたりと大変な負担を伴うもの。社会的に同一と言える事件について何度も訴え直されたりするのは大変ですから、できるだけ一発で終わりにするべきなのです。

 最初に住居侵入訴因についての日付けのズレ等の例を挙げたとき、「これは極端な例ですよ」と書きました。だって、普通であれば審理の経過に従って検察官がズレを修正するために素早く訴因変更してくるでしょうから、訴因維持のまま無罪なんてことにはまずならないからです。この場合、変更後の訴因について争う機会が被告人に与えられ、攻撃防御が充分に尽くされた後に裁判官が有罪無罪の判断をすることになります。

訴因変更命令

 以上見てきた様に、現行刑事訴訟法の当事者主義的な構造から、審判対象の設定変更である訴因変更も当事者たる検察官が行うのが原則です。でも検察官だって全知全能じゃないですから、訴因変更の請求を忘れることがあるかもしれません。裁判官が「侵入したのは11日の夜だなぁ」との心証を固めつつあるのに、検察官が「10日の夜だということについての立証は尽くしたし裁判官も納得してるだろうヤレヤレ」と思い込んでるかもしれません。

 こんなウッカリ状況に気付きつつ裁判官が「ズレがあるから無罪」なんて言っちゃうと、今度は事件の解決・真相究明という刑事訴訟の目的が吹っ飛んでしまうことになります。なので、裁判官としては「ねぇねぇ、今のままでいいの?」とソレとなく注意を促します。普通はこの段階で検察官が気付いてキチンと対応するんですが、超ボンクラで気付かなかったり、あるいは検察側の主張として今の立場を崩したくなかったりすることがあるかもしれません。

 「コノヤロウ、訴因変更すればこの事件は有罪判決で終わるのに、むざむざと無罪で終わらしちゃだめだろ!」と業を煮やした裁判官が取る最後の手段、それが訴因変更命令です。

刑事訴訟法312条

(起訴状の変更)

2項

 「裁判所は、審理の経過に鑑み適当と認めるときは、訴因又は罰条を追加又は変更すべきことを命ずることができる。」

 さっき312条を紹介した時に2項を抜いておいたのはココで紹介するため。2項は、刑事訴訟を主役(検察官と被告人)に任せっきりにすることで発生する不具合を補充的に裁判所が埋めていく、ということを規定した条文です。この命令がでた場合、さすがに検察官も従うことになるでしょう。普通は。

 「普通は。」と書いたのは、従わないこともあるしそれが違法ではないからです。刑事訴訟の主役は裁判官ではない…と今までずーっと書いてきました。とするならば、審判対象の設定・変更権限はあくまで当事者たる検察官にあるものと考えることになります。つまり、裁判官が命令を出したとしてもそれだけでは訴因は変更されず、検察官の訴因変更を待たなければならないということ。裁「11日の夜って訴因にしろYO!」検「だまらっしゃい!」なんて状況になった場合には訴因は「10日の夜」のまま動かないことになり、結局裁判官は検察官主張の通りの事実無しとして無罪判決をするしかなくなります。

 「じゃあ訴因変更命令なんて意味ねーじゃん!」と思われた方、その通りです。まあこの例もまた極端なものではありますけど…。ただ、訴因変更命令を出したという事実が控訴審の判断について影響を及ぼすことになっていきます。それについては後ほど…。

このページのまとめ

 このページで言いたかったことは、「訴因と裁判官の心証とにズレがある場合の修正として、訴因変更制度がある」「訴因変更がゆるされるのは、『社会的に同一の事件』間についてである」「訴因変更は、結局のところ検察官の専権である」ということです。それを頭の隅において次のページへ。

(1)危険運転致死傷罪と業務上過失致死傷罪
(2)故意犯と過失犯
(3)結果的加重犯
(4)刑事訴訟と適正手続
(5)審判対象=訴因
(6)訴因変更
(7)一審の判決
(8)上訴審の役割
(9)一事不再理

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【刑訴】 訴因変更についての覚書・その1

  • 2006年07月13日 15:52
  • from 教えるとは希望を語ること 学ぶとは誠実を胸に刻むこと

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