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トップページ危険運転致死傷罪と業務上過失致死傷罪 > (7)一審の判決


(7)一審の判決

危険運転致死傷罪と業務上過失致死傷罪

20050120-14:55 コメント (2) トラックバックする

 長々とここまで読んでこられた方、お疲れ様です。ここでようやっと本題である危険運転致死傷罪と業務上過失致死傷罪の違いが刑事訴訟でどの様に現れるかについてのハナシになります。今までの刑事訴訟についてのハナシの復習をしつつ、当てはめながら考えていくことにします。

 酒気帯び運転による死亡事故を例にしてみましょう。まず実際に起きた事故の捜査資料を基に検察官が訴因を設定します。この時、検察官の訴因は遺族の方々の心情にも配慮して危険運転致死(刑法208条の2第1項前段)だったとします。おそらくこんな感じの起訴状になるのでしょう↓(適当ですけど)

公訴事実
被告人は、平成○年○月○日○時頃、○市○丁目の道路上において、アルコールの影響により正常な運転が困難な状態であることを認識しながら普通乗用車を時速約70キロメートルで走行させ、同所横断歩道を横断中の被害者甲に自動車前部を衝突させ、よって甲に心破裂の傷害を負わせ、その場で死亡させたものである。

罪名及び罰条
危険運転致死。刑法208条の2第1項前段。

刑法208条の2

(危険運転致死傷)

1項

 「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で四輪以上の自動車を走行させ、よって人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。(後段略)」

 裁判官は訴因通りの事実の有無についてのみ判断することになりますし、被告人も同日同場所での危険運転致死事実の有無について攻撃防御を集中していくことになります。

 危険運転致死罪で有罪判決を取る為には、検察官は以下のA、Bについて裁判官に「確実に間違いない」と思わせるだけの立証に成功しなければなりません。

 しかし被告人の故意の立証は難しいものです。被告人が認めていれば別ですが、争っている場合には合理的にその故意を推認できるだけの証拠を集めてこなければなりません。例えば事故直前まで被告人と一緒に酒を飲んでいた友人の証言で「アイツは真っ直ぐ歩けない程酔っ払っていたのに車を運転して帰った」というものがあれば、被告人には自分が相当危険な運転をすることについての故意があったのではないか、と裁判官に強く思わせることができるはずです。

 逆にこんな証拠が無く、

●Aについてはほぼ確実だ
●被告人は酒気を帯びて運転していたようだが、Bの故意が有ったと言うには合理的な疑いが残る

 なんて心証を裁判官が抱いた場合にはどうなるでしょうか。この場合に「訴因通りの事実が無いから無罪」で終わらせるのはマズイですね。一方でヘベレケではなかったにせよアルコールの影響下で車の運転を続けていたのであればそれは重大な業務上の過失。こんな場合にどんな方法がありましたっけ。

 まずこの事例における事実のズレは些細なものではありませんから、ズレを無視して現訴因のまま業務上過失致死罪についての判断はできません。

 じゃあ現訴因のまま危険運転致死→業務上過失致死という縮小認定は出来るでしょうか。縮小認定をするには、その前提として大小関係が必要でしたよね。ところが危険運転致死罪と業務上過失致死罪はその構造が全く異なる犯罪だと説明しました。つまり大小関係にないのです。よって縮小認定も不可。

 結局、現訴因(危険運転致死罪)のままで業務上過失致死罪の判断はできないのです。なぜかって、故意犯と過失犯は構造が違いましたよね。

 被告人はAとBについて攻撃防御を集中してきました。ところが業務上過失致死罪の判断の為には、今まで気にしていなかった「過失」の有無についての判断が必要になります。この点についてなんら争う機会を与えないままいきなり業務上過失致死罪について判断したのでは被告人にとって不意打ちとなるのです。

 裁判官が上記の心証を抱いた時点で、

●現訴因を維持…危険運転致死罪の無罪判決の方向
●訴因変更…業務上過失致死罪の有罪判決の方向

 という二者択一になります。ここで検察官が訴因変更しようとしない場合はどうなるでしょう。現実にはありえないでしょうけれど「遺族の心情に配慮すれば、世間で『単に危険運転致死罪よりも軽い罪』と思われている業務上過失致死罪への訴因変更などできない」とか検察官が考えている場合です。裁判官としては被告人に故意が認められないという心証を固めつつあるんですから、検察官にソレとなく注意を促すことになるでしょう。死亡事故という重大事件について業務上過失致死罪の方向でなら充分に有罪に出来そうな状況なのに、手をこまねいて無罪判決を出すことが裁判官の仕事ではないからです。

 さりげない注意では検察官が動かない場合、最終手段として「コノヤロウ、訴因変更すればこの事件は有罪判決で終わるのに、むざむざと無罪で終わらしちゃだめだろ!」と訴因変更命令を出すことになります。それでも検察官に無視された場合、訴因通りの事実が認められないとして無罪判決が出ることになります。危険運転致死傷罪と業務上過失致死傷罪の違いは、刑事訴訟においてこの様な形で現れてくるのです。

 ここで勘の鋭い人は「あれ?一審で無罪が出ても控訴とか上告とかすればどうにかなるんじゃないのか? 」と思われるかもしれません。このページのタイトルも「一審の判決」ですしね。しかし、そうは問屋がおろしません。控訴審のハナシについては次のページで…。

このページのまとめ

 このページで言いたかったことは、「危険運転致死の訴因にこだわりすぎると無罪判決が出ることになる」ということです。それを頭の隅において次のページへ。

(1)危険運転致死傷罪と業務上過失致死傷罪
(2)故意犯と過失犯
(3)結果的加重犯
(4)刑事訴訟と適正手続
(5)審判対象=訴因
(6)訴因変更
(7)一審の判決
(8)上訴審の役割
(9)一事不再理

トップページ危険運転致死傷罪と業務上過失致死傷罪 > (7)一審の判決

"(7)一審の判決" へのコメント

御指摘ありがとうございます。修正しました>208条の2第1項
 
訴因変更における公訴事実の同一性の解釈については学者先生方の諸説を字面で眺めていても混乱するばかりですからね。「結局なにが言いたいのか」を自分なりに噛み砕いてからもう一度基本書を読むとスンナリと分ったりします。

  •   イシダ
  • 2005年11月05日 17:53

訴因変更は刑事訴訟法の教科書でも、本を書いた教授自身が読んでもわからないだろう、といういうぐらい理解しずらい箇書で、やはり、具体的な図を使って説明しています。文より図の方が感覚的にイメージしやすいし理解も進むということでしょう。
わかり易く面白く読ませていただきました。現行刑法208条二、1項は「人を負傷させた者は15年以下の懲役」に改正されています。


  •   ドン・ポンタ
  • 2005年11月04日 09:33

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