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監督者責任に絡んで

ニュースとかネタとか

20050221-00:21 コメント (8) トラックバック (1)

 キャッチボール当たり男児死亡、親に6千万円賠償命令という記事に付いてお便りを頂いたので適当にお絵かきとかしてみると以下の様な感じ。

 なぜ加害男児の両親に損害賠償が命じられているのかと言うと、これは監督者責任を問われているからです。今回の場合ボールをぶつけているのは男児ですが、この男児に対して「不法行為だ!損害賠償だ!」とは言えません。これは男児に責任能力が無い(民法712条)と判断され、不法行為責任(民法709条)を問えないからです。また、現実的に考えても男児が大金を持ってる訳ないですし、男児に「金払え!」と言っても無意味です。

 しかしこのように責任能力が無いとされる者には監督者が付いているのが普通です。そこで、被害者救済の点からも、監督者に責めるべき点があるのであれば損害賠償をしてもらおうというのが監督者責任です(民法714条)。

 そして監督者責任を追求するための前提として、責任無能力者(今回の事件では加害男児)の行為が、責任能力以外の点で一般不法行為(民法709条)の要件を全て満たしていなければいけないとされています。具体的には▼故意又は過失によって▼他人の権利を侵害し▼それによって(因果関係がみとめられ)▼他人に損害が生じ▼違法性を否定する事情が無いこと…です。

 記事で「ボールがそれて他人にあたることが十分に予見でき…」と言っているのは、この加害男児の過失についての判断です。過失とは、「ちゃんと注意していればこんな結果が発生することは予見できたし、こんな結果を回避することが出来たのに!なんで注意を怠ったんだ!」ということ。これが加害男児に認められたのがまず騒がれてる理由です。

 でも、今回の判決は公園でのキャッチボール一般に付いて過失だ何だって言ってるわけじゃないですよ。上の絵にも描いたように、約17メートル離れてキャッチボールをしているすぐ横1.5メートルの所には色んな遊具があって、そこで遊んでいる子供が何人か居たのです。この状況でキャッチボールをすることはどうなのか?ということです。

 ちょっと手元が狂えば誰か知らない人に当てちゃうかも知れない、そうしたら怪我させちゃうかもしれない、当たり所が悪かったら…ということは予見できると言えませんか。加害男児にはこの点に不注意があったのです。

 次に(記事では書かれていませんが)加害男児の行為の違法性も難しいところです。上記の一般不法行為の要件▼他人の権利を侵害し…とは、違法行為を行ったという意味だと解釈されています。とすると、今回の加害男児の行為も違法との評価を受けたことになります。児童の遊戯中の事故について最判昭37.2.27 「鬼ごつこ」中の傷害行為に違法性がないとされた事例なんてのもあり、一般に容認されている児童のお遊びが違法の評価を受けることは普通は無い様にも思えるので気になりました。

 公園で一般に容認される遊戯であるキャッチボールですら状況に応じては違法との評価を受けるとのことでしょうから、これは結構厳しい判断だと思います。前掲の判例とは被害児童の立場がかなり違いますから、突飛な判断ではないとは思いますが。

 最後に、加害男児の両親も、加害男児がその様な場所でキャッチボールをしたりしないように指導監督する責任があったはず。それを怠って今回の様な事故を発生させた訳ですから、監督者責任を免れることは出来ないという判断です。

 この様に見てくれば、無茶苦茶な判決だとは言えません。ただ、やっぱり一番微妙だと思うのは加害児童の予見可能性です。控訴審がこの点をどう判断するか注意していたいですね。

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"監督者責任に絡んで" へのコメント

>小学生のソフトボールは「一般に容認される遊戯」でしょうが、ソフトボールを一緒にしていた者に被害が生じているわけではないので『一定の事情の下に』行われた行為かどうかは微妙です。


 そうですね。ですから「前掲の判例とは被害児童の立場がかなり違いますから、突飛な判断ではないとは思いますが。」と書きました。


>というわけで、違法性を否定する事由の存否はともかくとして、権利侵害(違法性)要件は特に問題ないと思うのですが、いかがでしょう?


 判示事項に「~違法性がないとされた事例。」とあったため、端的に『一般に容認されている児童のお遊びが違法の評価を受けることは普通は無い様にも思えるので気になりました。』と書きました。ご指摘の通り、厳密に言えば違法性阻却事由の有無でしょう。


>違法の意味


 不法行為責任の趣旨からか考えれば、この場合の違法とは「法律観念上その侵害に対して不法行為に基づく救済を与えるか否かの判断基準である」と言えるでしょう。個人的見解に過ぎませんけど。


>カツオ


 その場合、窓を割られる側の人は空き地に窓を持ち込んで遊んでいた訳ではありませんよね。

 例えば、こういう例はどうでしょうか。広い公園で子供たちが凧揚げをして走り回っています。みんな、公園内には他の子供たちがいることを知っています。この時、凧揚げに夢中になって前を見ずに走っていた子供が、しゃがんでいた子供に激突してケガをさせてしまいました。さて、この場合に子供の行為は違法と言えるでしょうか。

 子供同士の主観的な繋がりは無くても、何人かの子供が同じ場所で遊びまわるのはよくあることです。その場合に発生した事故について、不法行為により救済するだけの「違法性」があるでしょうか、と。

 今回の判決は、違法性を認めるべき特段の事情を認めたことになります。その判断がちょっと安易なのではないか、という指摘をされている民法学者さんの意見を新聞で目にしたので、なるほどと思い違法性の話を書きました。

突然の横槍すいませんが...。
 
『児童の遊戯中の事故について最判昭37.2.27「鬼ごつこ」中の
 傷害行為に違法性がないとされた事例なんてのもあり・・・。』
 
この事例は“一緒に”「鬼ごつこ」していた児童同士の話ですよね?
 
この最高裁での判断を基礎に、この事件を考えると...
原告「被告らの子供の行為には違法性があった!」
被告「一般に容認される遊戯中に『一定の事情の下に』
   他人に加えた行為だ!」(違法性を否定する事由)
原告「本件行為はそれでも違法といえる特段の事情があった!」
との主張が交わされることになります。
 
小学生のソフトボールは「一般に容認される遊戯」でしょうが、
ソフトボールを一緒にしていた者に被害が生じているわけではないので
『一定の事情の下に』行われた行為かどうかは微妙です。
 
刑事と民事を安直に比べるのはいかがなものかとは思いますが、
例えば、刑法での「過失の引受け」の議論は、
違法性阻却事由の段階で論じられることが多いと思います。
 
というわけで、違法性を否定する事由の存否はともかくとして、
権利侵害(違法性)要件は特に問題ないと思うのですが、
いかがでしょう?
 
『一般に容認されている児童のお遊びが違法の評価を受けることは
 普通は無い様にも思えるので気になりました。』
 
民事不法行為の分野では、知る限り、違法性の定義というものが
争いなく定まってはいないようですので、
イシダさんの「違法」の意味するところがわかりませんが、
サザエさんのカツオ君みたいに、ソフトボールしていて
隣の家の窓を割ったら、それはおそらく違法でしょうね~。

  •   
  • 2005年02月26日 15:22

>イシダさん

 9歳に適用していいのか?って考えたのは、基準人が、医療だったら一般的な医者、とか特殊な行為の場合は特殊な職業の平均人を想定し、およそなんでも平均的な一般人を想定するのではないなら、「一般的な少年野球の子」(笑)みたいなのがあってもいいのかな?と思ったわけで(細かすぎますが)。私の感覚的なものなので根拠なしです。
 親の監督責任の免責ですが、イシダさんがおっしゃる程度の注意は当然あったものと考えていたのですが、それすらなかったのなら責任を問われて当然ですね。私は口頭で注意していた場合でも裁判所は免責しないと考えるのですが…というか個人的に法定の監督義務者がその程度で免責されるべきでないと思います。って今回の判決は厳しいなぁと思っていたのに、私のほうが厳しいですね…。
 事案の詳細を知らないので、結局裁判所は妥当な結論なんでしょうね。地裁だから思い切ったのかなぁと思ってたのですが。高裁の判断が気になりますね。やっぱり焦点は「公園でのキャッチボールで第三者の死亡を予見できるか」ですね。
 こんなの論文で聞かれたら、すごく悩みそう…

  •   mit
  • 2005年02月23日 02:02

>TakahiPoさん


 父親も日常的に公園でキャッチボールの相手をしたり、子供の公園でのキャッチボールを知りながら特に注意を与えていなかったりしていたみたいですから、たとえ事故当時に現場に居なかったとしても、監督者としての義務を怠っていたということに変わりは無いと思います。


>名無しさん


 ボールを不意にぶつけられた事によりどの様な因果経過で死に至るかに付いての詳細な予見は不要なのです。およそボールを不意にぶつけたらどこかしらに怪我をさせちゃうだろうし、それが原因で大変な結果を発生させることになるかも…ということさえ予見できれば、加害者はその大変な結果を避けるための努力が出来たはずで、その努力を怠ったことが過失とされるのです。

 およそ死の発生が予見できていれば、実際に発生した結果が「心臓震盪による死」であっても「頭部外傷による死」であっても関係ないのです。

 ただ、イシダが「予見可能性は微妙だ」と書いたのは、死という結果が予見できていなかった場合には過失が否定されるからです。判決は、本件の様な状況下でのキャッチボールについて、「手元が狂えば誰かを死に至らしめることがあるということは一般人なら予見できる」と判断していることになりますので、ここは評価が分かれるところでしょう。

 尚、我々は相応の注意を払っていれば何ら法的な賠償責任を科される事はありません。親が子供を外で遊ばせる際にはしかるべき注意を与えることが求められるのだと思います。


>mitさん


>裁判所からのメッセージなのでは?と思ってみたり…

 イシダが↑で書いたこととすこし似た話になりますね。やっぱり親がしかるべき注意をしてないとアカンよというメッセージは有ると思います。

>9歳にこの基準を適用していいのか

 客観的過失の認定にはいいんじゃないでしょうか。刑法的な話では9歳児には責任過失が認められませんから結局帰責されませんし、民法的にも責任能力を否定されるので帰責されませんし。

 監督者責任を問う前提としての一般不法行為の要件であるところの過失の認定ですから、判決もやや被害者救済の方向に寄って判断してる気がします。

>親の責任はどこまで果たせば免責なのか

 今回の事件に付いて言えば、例えば日頃から親としても他の子供が近くに居る場所ではキャッチボールの相手をしないとか、野球道具を持って遊びに行こうとしている子供には「安全な場所を考えてやれよ」と言い含めておくとかしていれば免責されるんじゃないでしょうか。

ちょっと補足。予見可能性で年齢は関係ないですね。あと、判例はありうることなら予見できると考える傾向にあることから考えると、死亡は確率的にすごく低いがありうるといえるし。ただ、低い可能性のことも意識して行動する人を標準的な一般人としていいのか疑問は残るのですが…。個人的には、9歳にこの基準を適用していいのか、その場にいない(多分)親の責任はどこまで果たせば免責なのか(判例はほぼ無過失責任ですが)、が気になります。

  •   mit
  • 2005年02月22日 17:53

私も死亡の予見可能性は難しいんじゃないかと思います。加害男児が9歳なこと、軟式ボールで距離が17m離れていたこと(少年野球をやっててもそれほどの球威はないでしょう)、野球の試合(草野球も含め)でもデッドボールで人が死ぬということはめったに聞きません(この場合相手も注意してるわけですが)。これらから死亡までの予見は無理かなと。
思うに、最近、親が子供を見ないことによる問題が多く起こっているため、裁判所からのメッセージなのでは?と思ってみたり…

  •   mit
  • 2005年02月21日 21:34

軟式ボールでしたし、怪我はともかく死亡についてもあっさり認定するのはどうなのでしょうね。「心臓震盪」なんて私もほとんど聞いたことがありませんし、死亡した男児側の弁護士がよほど優秀だったんじゃないかとも思えます。これではもう親は子供を外で遊ばせようとは思わないでしょう……。

  •   
  • 2005年02月21日 02:02

この状況だと、監督責任のある親がいたから…と言うように見えますが、実際のところはどうなんでしょう…?
男児のみで遊びに行ってキャッチボールという状況もあるでしょうし(むしろ多いかもしれません)、その場合はヤッパリ今回の判決の下った金額より低くなったりしたのでしょうか?

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その過ちの真実と未来

  • 2005年05月28日 07:21
  • from 文学者β

宮城県で起きたキャッチボール中の死亡事故に対する損害賠償請求に関しての感想と考察。いくつかの疑問点から判決の妥当性について考える。 [続きを読む]