所有権の取得
20051019-17:51 コメント (2) トラックバックする
丁度ノラ猫絡みで所有権のことを考えていたら、遺失物法改正へ?みたいな新聞記事を見つけたので今日は所有権の取得原因についてチョロリと書いてみんとす。
所有権という言葉自体は先日話題にした占有権とは違って一般に使われるものですから、皆さんイメージが持ち易いはず。民法上は「所有権の内容」として以下の様に規定されています。
民法206条
所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。
講学上、所有権とは「ある特定のものを全面的に支配する権利」つまり「ある特定の物を法律の範囲内で自由に使用・収益・処分することが出来る権利」であると説明されます。自分の物なんだから自由に使っていいのは当たり前ですし(例:自分のチャリを乗り回す)、それを元手に利益を上げることも出来ます(例:チャリをレンタルして使用料を取る)。また、要らなくなったものは無理して持ち続けずに捨てることができます(例:要らなくなったチャリをゴミ捨て場に出す)。もちろんこれらは他者の権利を侵害するような形で行ってはなりませんが(例:要らなくなったからって不法投棄はNG)。
それでは、我々がある物の所有権を取得する原因となるものは何でしょうか。一番イメージが湧き易いのは、元の持ち主から買ったり貰ったりする場合ですね。この場合の様に、元の持ち主から物の所有権を受け継いでくることを「所有権の承継取得」と呼び、相続なんかもこの部類に含まれます。
この部類以外に、いきなり自分の下に所有権が湧いて出る「所有権の原始取得」と呼ばれる部類があります。その規定には以下の様な連中が居る訳で…。
民法162条(所有権の取得時効)
1項
20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2項
10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
民法192条(即時取得)
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
民法195条(動物の占有による権利の取得)
家畜以外の動物で他人が飼育していたものを占有する者は、その占有の開始の時に善意であり、かつ、その動物が飼主の占有を離れた時から1箇月以内に飼主から回復の請求を受けなかったときは、その動物について行使する権利を取得する。
民法239条(無主物の帰属)
1項
所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。
民法240条(遺失物の拾得)
遺失物は、遺失物法(明治32年法律第87号)の定めるところに従い公告をした後6箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを拾得した者がその所有権を取得する。
民法241条(埋蔵物の発見)
埋蔵物は、遺失物法の定めるところに従い公告をした後6箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを発見した者がその所有権を取得する。ただし、他人の所有する物の中から発見された埋蔵物については、これを発見した者及びその他人が等しい割合でその所有権を取得する。
(この他、民法242条以下の「添付」)
239条については、ノラ猫の話や釣り人が釣った魚の話のアレです。それ以外にも、誰かから所有権を受け継ぐわけでなく突然自分の手元に所有権が湧いて出る規定というのはこんなに有るんですね。
今回記事になっているのは240条絡み。改正前民法の文言では「遺失物ハ特別法(ここでは遺失物法)ノ定ムル所ニ従ヒ…」となっていたので気付かなかったものの、遺失物法って誕生日はめっちゃ古いのね。あれ?記事には
遺失物法は1958年以降改正されていない古い法律で、法改正も含めた議論になるとみられる。
なんて書いてありますけど、法庫のページじゃ平成11年に改正入ってるぞー。まあそこいら辺には目をつぶるとして、上記リンク先の条文を見てもらえば分るようにカナ文で読みづらいったらありゃしません。大体どんなことが規定されているのかを簡単にまとめると、
▼落し物を拾った人は、すぐに持ち主に返すかお巡りさんに届けるかしましょう。
▼落し物を受取ったお巡りさんは、持ち主を探して返して上げましょう。
▼落し物が目出度く自分の手元に帰ってきた人は、拾ってくれた人にその落し物の価格の5%~20%の報労金をあげましょう。
これはこれで良さ気な法律に見えるんですけども、どうやら現実的ではない点もあるみたい。というのも、
拾得物は、遺失物法により最寄りの警察署に届け出ることになっているが、基本的に警察署単位で拾得物と遺失物の届けを扱っているため、別の警察署に届けが出た場合は所有者に戻らないケースもあるという。
というトホホな運用がなされているため。これじゃ旅行先でお財布を落とした場合なんかは困りますね。これは遺失物法の文言に問題が有るのかも。
遺失物法1条
1項
他人ノ遺失シタル物件ヲ拾得シタル者ハ速ニ遺失者又ハ所有者其ノ他物件回復ノ請求権ヲ有スル者ニ其ノ物件ヲ返還シ又ハ警察署長ニ之ヲ差出スヘシ
但シ法令ノ規定ニ依リ私ニ所有所持スルコトヲ禁シタル物件ハ返還スルノ限ニアラス2項
物件ヲ警察署長ニ差出シタルトキハ警察署長ハ物件ノ返還ヲ受クヘキ者ニ之ヲ返還スヘシ
若シ返還ヲ受クヘキ者ノ氏名又ハ居所ヲ知ルコト能ハサルトキハ政令ノ定ムル所ニ従ヒ公告ヲ為スヘシ
この様に警察署長っていう言葉で様々な規定がなされているせいで、落し物の取扱いも各警察署単位にならざるを得ないという…。そこら辺は各警察署間の連携でどうにかなりそうな気もするものの、折角だから遺失物法ごと全部変えちゃった方がスッキリするってことなのかなぁ。
尚、今回取り上げた条文のうち192条と195条については次回のラジオでお話します。むむん。
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それについてもラジオの方で…
前のエントリーにも書きましたが、詳細な解説ありがとうございます。
民法192条と別に、わざわざ民法195条の規定がある、というのが素人的には気になります。
この規定がないと何がまずいのか、イメージできません……